PTSDと社会の期待：回復の過程における整合性と矛盾の捉え方

社会はしばしば、心の病やトラウマを持つ人々に対して回復の過程で一貫性や論理性を求めることがあります。しかし、これは本当に適切なアプローチなのでしょうか？元フジテレビアナウンサーの渡邊渚さんの例を通じて、PTSDを抱える人々に対する社会の厳しい視線とその影響について考えてみましょう。

PTSDと回復の過程

PTSD（心的外傷後ストレス障害）は、単に「過去の出来事を忘れる」ことでは回復しません。その回復過程は、日々の状況や体調によって変動し、時には予想外の反応を示すこともあります。特に、トラウマを乗り越えようとする人々にとって、「今日は元気でも、明日はつらい」といった感情の浮き沈みは日常的なことです。

したがって、回復過程において一貫した態度や行動を求めること自体が無理な要求となることが多いのです。それでも、社会はその回復過程に「整合性」を求め、矛盾を指摘することがあります。このような期待が、当事者にとってどれほどのプレッシャーとなるか、考える必要があります。

「整合性警察」という言葉は、言葉や行動が一致しないことを過剰に指摘する人々を指します。渡邊渚さんのような公の人物が、過去の発言や行動と異なる行動を取ると、それを矛盾として責められることがあります。しかし、この矛盾が本当に問題なのか、再考する必要があります。

特にPTSDを抱える人々に対して、回復する過程で行動が変わることは自然なことです。トラウマを持つ人に対して過度に一貫性を求めることは、回復を妨げる可能性があるという点を、社会は理解すべきです。

回復の過程において、「前に言っていたことと違う」と批判することは、実質的に「回復しようとするな」という命令を出しているのと同じではないでしょうか。人はその時々の状況や心の状態によって、考えや行動が変わるのは当たり前のことです。

「整合性」を過剰に求めることは、回復しようとしている人々の前に立ちはだかる障壁となります。PTSDを抱えている人が「今日は元気だ」と言ったからといって、その人が完全に回復したわけではありません。そのような細かい違いを指摘することが、どれほど無神経であるかを考えるべきです。

社会が心の病に対して抱く偏見の一つは、症状が「見えない」ため、信じることができないという点です。しかし、心の病は目に見える傷ではありません。それゆえに、回復の過程が「整合性」を欠いているように見えると、批判されることがあります。

しかし、PTSDの回復過程は決して直線的ではなく、むしろ波のように上下するものです。社会がこの不確実性を理解し、支える姿勢を持つことが、当事者にとっての真の支援となるはずです。

PTSDを抱える人々の回復には、一貫性や整合性を求めることが果たして本当に適切なのか、再考が必要です。回復の過程においては、日々の体調や状況によって考えや行動が変わるのは自然なことです。それを批判することなく、温かく見守り、理解することが社会としての責任です。