近年、著名人をめぐる性加害疑惑が報じられるたびに、「陰謀論」や「ハメられた」という言説がSNS上で飛び交います。特に中居正広さんのケースでは、SNS上で「中居くんは被害者だ」「陰謀でハメられた」などの投稿が目立ち、議論が感情論に終始してしまっている場面も散見されます。
第三者委員会の存在と調査の信頼性
中居さんのケースにおいては、第三者委員会による調査が行われ、その報告書の中で明確な権力構造と性の非対称性が存在したとされています。被害を受けたとされる女性は、断ることが極めて困難な業務環境にあり、その状況を「同意があった」と見なすのは極めて時代錯誤な考えです。
たとえば、社内において上司からの飲み会の誘いを断れず、結果的に望まない身体的接触があったとしても、それを「同意」とするのは無理があります。職務上の上下関係がある場面では「自由な意思決定」が成立しづらいという点は、労働法やハラスメント規定でも明記されています。
「ハメられた」説の根拠の曖昧さ
「ハメられた」と主張する側の根拠は、明確な証拠よりも感情的な擁護が中心です。中には「報告書には法的拘束力がない」と主張する声もありますが、それはあくまで「司法の裁きではない」ことを意味するのであって、調査結果の信頼性を否定する理由にはなりません。
むしろ、そうした主張をする人々に対して問われるべきは、「中居さんが完全無実であると断定できる証拠は何か」という点です。報告書を否定するのであれば、同様に“無実”を証明する責任も伴うはずです。
情報操作と議論のすり替えに注意
現在の議論の中で特に問題なのは、「性暴力」という言葉の定義を都合よく扱い、被害の構造そのものを軽視する点です。議論の焦点は「合意があったか否か」だけでなく、「合意ができる環境だったかどうか」にも向ける必要があります。
また、「かわいそうな中居くん」という感情的な擁護論は、本来焦点を当てるべき被害者の立場を隠してしまう効果があります。こうした感情論が優先されると、被害女性への二次加害が起き、社会全体のジェンダー意識の後退を招きかねません。
SNS社会におけるメディアリテラシーの重要性
誰でも自由に意見を発信できるSNSにおいては、情報の正確性や構造的理解が求められるリテラシーが必要不可欠です。特に性暴力に関する議論では、個人の印象論ではなく、構造的暴力や権力関係に注目する必要があります。
たとえば、ある男性タレントが女性スタッフを食事に誘い、業務の一環として断りづらい状況をつくり出した場合、それだけで“意図”がなくても“構造”としてのハラスメントが成立し得ます。このような背景を無視して「陰謀だ」「信じない」とするのは、現代の人権意識から大きく外れています。
まとめ:加害性の有無ではなく、構造を問う視点を
今回の事例に限らず、性暴力やパワハラの問題においては、「本人にその気があったかどうか」ではなく、「その行動が構造的にどのような影響を与えたか」が問われます。社会が個人の意図にのみ着目し、被害構造を軽視する傾向を続ければ、同様の問題は繰り返されるでしょう。
感情的な擁護や陰謀論に頼るのではなく、客観的な調査と被害者の声に基づいた判断を社会全体ができるよう、今こそメディアリテラシーとジェンダーリテラシーの向上が求められています。
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