マイケル・ジャクソンと人種差別を調べる資料ガイド|Black or White、They Don’t Care About Us、音楽業界との関係から読み解く

ミュージシャン

マイケル・ジャクソンについて人種差別という観点から調べる場合、単に「本人が差別を受けたのか」を調べるだけでは十分ではありません。アフリカ系アメリカ人アーティストとしての音楽産業での立場、人種の壁を越えたクロスオーバー、作品に表れた人種観、メディアによる身体・肌の色の扱われ方、そして晩年に本人が音楽業界へ向けた人種差別批判まで、複数のテーマに分けると理解しやすくなります。

幸い、マイケル・ジャクソンと人種を扱った学術論文や研究書は複数存在します。ここでは、レポートや研究の入口として利用しやすい資料と、それぞれから何を調べられるのかを整理します。

マイケル・ジャクソンと人種差別を調べるなら5つのテーマに分ける

最初に研究テーマを整理しておくと資料を探しやすくなります。大きく分けると、「黒人アーティストとしての成功」「作品における人種差別へのメッセージ」「メディアと肌の色」「音楽産業に対する本人の差別批判」「アメリカ社会の人種問題との関係」という5つの方向があります。

例えば「Black or White」だけを分析する場合と、マイケル・ジャクソン自身が音楽業界で経験したと主張した差別を研究する場合では、必要な資料がまったく異なります。そのため、最初から「マイケル・ジャクソンと人種差別」という巨大なテーマにせず、一つの問いに絞るのがおすすめです。

研究テーマ 調べる対象
音楽産業と人種 黒人アーティストのクロスオーバー、レコード会社、音楽メディア
作品と人種差別 Black or White、They Don’t Care About Usなど
身体と人種 肌の色、尋常性白斑、外見をめぐるメディア表象
本人の発言 インタビュー、Sony Musicをめぐる発言など
社会史 アメリカの黒人音楽、人種関係、ポップカルチャー

まず読みたい学術資料「Black or White? Michael Jackson and the Idea of Crossover」

マイケル・ジャクソンと人種を研究する際に有力な資料の一つが、David Brackettによる「Black or White? Michael Jackson and the Idea of Crossover」です。学術誌「Popular Music and Society」に掲載された論文で、マイケル・ジャクソンが長年「クロスオーバー・アーティスト」と呼ばれてきたことを出発点として、人種、音楽、聴衆の関係を分析しています。

ここでいうクロスオーバーとは、ある音楽ジャンルや特定の聴衆層を越えて幅広い層に支持されることです。マイケル・ジャクソンの場合、黒人音楽の文脈を持ちながら世界規模のポップスターとなったため、アメリカの音楽産業における人種の境界を考える重要な事例になります。

「マイケル・ジャクソンはどのように人種の壁を越えたのか」「その成功を単純に人種を超越したものと考えてよいのか」というテーマなら、特に参考になる研究です。[参照]

「They Don’t Care About Us」から人種差別を研究する

より直接的にマイケル・ジャクソンの作品と黒人社会の問題を研究したい場合には、Brian Rossiterによる「They Don’t Care About Us: Michael Jackson’s Black Nationalism」が有力な資料です。この論文も「Popular Music and Society」に掲載されています。

論文では「They Don’t Care About Us」を中心に、マイケル・ジャクソンの作品に存在する黒人社会への連帯や政治的メッセージが検討されています。単純な歌詞解説ではなく、アフリカ系アメリカ人の社会的状況や政治化された黒人音楽の歴史とのつながりまで考察できる点が重要です。

そのため、「マイケル・ジャクソンは作品を通じて人種差別をどのように表現したのか」というレポートを書くなら非常に使いやすい資料です。[参照]

「Black or White」の映像表現も重要な研究対象

「Black or White」はタイトルからも分かる通り、人種について考える際に外せない作品です。ただし、歌詞だけを見るのではなくミュージックビデオまで含めて分析すると、より深い研究になります。

Joseph Vogelによる「I Ain’t Scared of No Sheets: Re-Screening Black Masculinity in Michael Jackson’s Black or White」は、「Black or White」の映像を黒人男性性や人種表象という観点から分析した学術論文です。作品を社会的・歴史的文脈から分析したい場合の参考文献になります。[参照]

また、Peter Childsによる「Pop Video: Michael Jackson’s ‘Thriller’ and ‘Race’」では、「Thriller」を人種研究の視点から扱っています。「Black or White」や「They Don’t Care About Us」以外の代表作にも人種表象という研究テーマを広げたい場合に役立ちます。[参照]

肌の色と人種アイデンティティを調べるときの注意点

マイケル・ジャクソンと人種を調べると、ほぼ必ず肌の色の変化についての話題に行き着きます。しかし、ここは特に慎重な資料選びが必要です。「白人になりたかったから肌を白くした」といった俗説だけを根拠に論じるのは適切ではありません。

マイケル・ジャクソンは1993年のテレビインタビューで尋常性白斑について公に説明しています。また、彼の身体的変化と人種アイデンティティについては後年の研究でも議論されています。例えば「The Roots and Routes of Michael Jackson’s Global Identity」では、彼の世界的アイデンティティ、人種、外見、白斑などがより広い社会的文脈から論じられています。[参照]

したがって、「肌が白くなった=黒人であることを嫌っていた」と結論付けるのではなく、医学的事実、本人の発言、当時のメディア報道、研究者による人種表象の分析を分けて扱うことが重要です。

Sony Musicとの対立と「黒人アーティストへの差別」という主張

マイケル・ジャクソン本人の人種差別に関する発言を調べるなら、2002年前後のSony Musicとの対立も重要です。ジャクソンは当時、音楽業界が黒人アーティストを不当に扱っているという趣旨の批判を行い、Sony Musicの当時のトップだったTommy Mottolaについても人種差別的だと公然と非難しました。

この出来事は当時の新聞でも報じられています。一方でSony側はジャクソンの主張を否定しており、この件については「ジャクソンの発言=確認された事実」として扱わないことが重要です。本人の主張、Sony側の反論、当時の契約やアルバム「Invincible」をめぐる対立を分けて検討する必要があります。[参照]

むしろ研究テーマとして面白いのは、「Sonyが実際に差別したか」という二択だけではありません。黒人アーティストと大手レコード会社の力関係、歴史的に黒人音楽が商業化されてきた過程などを調べ、その中にジャクソンの主張を位置付けると、より説得力のある研究になります。

レポートなら一次資料と二次資料を分けて使う

マイケル・ジャクソンの人種差別についてレポートを書く場合、資料を「一次資料」と「二次資料」に分けると整理しやすくなります。一次資料には本人のインタビュー、楽曲、ミュージックビデオ、当時の発言などがあります。

一方、二次資料としては査読付き学術論文、大学出版局の研究書、研究者による文化研究などを利用します。新聞記事は当時の出来事や反応を確認する資料として有用ですが、一つの記事だけで歴史的事実を確定させないことが大切です。

例えば「They Don’t Care About Usにおける人種差別表現」をテーマにするなら、楽曲と公式映像を一次資料にし、Rossiterなどの論文を二次資料にするという組み合わせが考えられます。自分で作品を分析した上で研究者の議論と比較できるため、単なる情報のまとめになりにくくなります。

おすすめの調べ方と検索キーワード

英語圏の研究資料が非常に多いため、日本語だけで検索すると重要な研究を見落としやすくなります。Google Scholarや大学図書館のデータベースでは「Michael Jackson race」「Michael Jackson racism」「Michael Jackson racial identity」「Michael Jackson Black or White race」「Michael Jackson They Don’t Care About Us racism」「Michael Jackson crossover race」などのキーワードが有効です。

さらに「Black music industry racism」「African American artists music industry」など、マイケル・ジャクソンの名前を外して検索すると、アメリカ音楽産業全体における人種問題を扱った研究にもたどり着けます。

個人ブログやSNSは研究の入口として利用できますが、レポートの根拠としては、学術論文、研究書、本人の一次資料、信頼できる報道を優先すると資料の信頼性を高められます。

まとめ

マイケル・ジャクソンと人種差別については、かなり豊富な研究資料があります。特に「Black or White? Michael Jackson and the Idea of Crossover」「They Don’t Care About Us: Michael Jackson’s Black Nationalism」、そして「Black or White」の映像と黒人男性性を分析した研究は、有力な出発点になります。

研究するときには「マイケル・ジャクソンは人種差別を受けた」という一方向の結論を先に決めるのではなく、黒人アーティストとしての成功、作品による人種差別批判、メディアによる人種表象、本人の発言、音楽産業との対立などを分けて検証することが重要です。

特にレポートや論文では、本人の作品・発言という一次資料と、研究者による学術的な二次資料を組み合わせることで、マイケル・ジャクソンという一人のスターを通して、20世紀後半から21世紀初頭のアメリカにおける音楽・人種・メディアの関係をより立体的に考察できます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました